ドーピングは許さない

ついにランスがゲロった。

核爆弾クラスの衝撃が自転車界を襲ったのは言うまでも無い。いや、スポーツ界といっても言い過ぎではないと思う。バイクジャーナル読者の大半の方がドーピングがどういったもので、ましてや実際に検査を受けた事は無いと思うが、私自身は選手として20回ほどのドーピング検査を受けてきて、監督としても選手達の検査に立ち会い、もちろん陽性など出た事が無い。出ていたのならこの場で日記など書いていないだろう。

今回の一件で「自転車=ドーピング」という図式が今まで以上に強固なものになってしまったと思う。ランスは英雄から一転、歴史的な犯罪者(ペテン師)となってしまった。2002年から私はチームTREKに所属しており、同じくTREKに乗るランスの活躍は正にヒーローそのものだった。同じ自転車メーカーのライダーとして誇りだったし、憧れもした。同じ自転車に乗る憧れたヒーローが今では犯罪者になってしまった事に、少々の戸惑いもあるが、悪いものは悪い。ヒーローだって道を踏み外す事もある。
もう今では自分の中で消化できている。

(かなりの極論なので笑って読んで下さい)
私個人の意見としてドープをしてはいけない一番の理由として「それでゲームに勝って楽しいのか?」って事。自分を騙しファンを騙してまで勝って何が楽しいのか?もちろんドープはダメだとルールで定められているので、個人の「心情」などどーでもいい事かもしれないが、最初と最後は自分で選択するもんだ。現時点では検出できないなら問題無いとか、当時は禁止では無かったから問題ないとか、皆やっていたとかいう人もいるが、そういう事ではなく、そういった事をしてまで勝とうとする心がさもしい。
自転車競技は五輪競技でもあるれっきとしたスポーツだ、サーカスやショーの様に見せるためだけだったらどれだけ肉体改造して人造人間になっても客は喜ぶし誰も文句言わない。しかしスポーツはスポーツだからこそルールの中で戦うからドラマがあり汗と涙が似合う。

そんなドラマ好きな日本では何故かドープに対しての考えがメディアを含め関係者も非常に甘く、出場停止になったとしても「もう一度頑張って欲しい」などといった戯言が結構聞こえてくる。先日の日記で東京オリンピック招致を~と書いたが、厳しい事を言うけれどオリンピックから外れても良いと思う。「クリーンになった」と声高らかに叫ぶ中での2012年ツール・ド・フランスからドーピングが出ている事からも、本当のゼロからスタートするためにはプロツアーも無くして賞金も無くしてプロチームも無くして完全なアマチュアとして勝っても一銭にもならない中でも走りたいライダーだけで始めたり、自転車に夢と希望を持つ子供が落胆しチンピラになったり、自転車で飯を食う関係者が廃業して路頭に迷ったりと自転車に関係する全ての人が苦しんでしまうくうらいにならないと、これほどまでにドープはダメだと言われるのにまだやる人がいるので「気が付かない」。ランスですら当時は「違反という認識が無かった」というくらいだから、自分の家族、チームメイト、その他もろもろの関係者全て一族郎党晒し首になるくらいの時代錯誤も甚だしいくらいまでしないと「気が付かない」のではないかと思う。一度根付いた事を根絶やしにするってのは難しい。溜まってしまった脂肪を落とすのが大変なように、隅々まで入り込んだ「悪」を消し去るにはかなりの犠牲を覚悟して根絶やさないと、いずれまた僅かな塵から山になる。一度、火を消してしまえと。

そして日本でもドーピング陽性は出ている、事無かれになってしまったが、ドープは対岸の火事ではない事は確かだ。近頃は小学生でもサプリメントを取ったり勧めたりと、昔みたいに沢山食って寝ろ!では小学生、ひいてはその親が納得しないし、子供用の栄養ドリンクが売られる始末で、そういう物に頼ってパフォーマンスの維持やアップをするという思考は巡り巡ってドープをしてでも・・・という弱い心の持ち主になってしまう恐れがある。なるべく子供の前では栄養ドリンクやサプリなどを取る姿を見せたくはない、レース当日に「寝不足でキツイから飲んでおくか!」と栄養ドリンクを飲み干す大人の姿はそこら中のレース会場で見受けられるが、子供への影響を考えると見せるべきではないし、そもそも禁止薬物が含まれている栄養ドリンクが多いので知らず知らずのうちに禁止薬物を摂取している事になる。ドーピング検査をする公式レースではないし草レーサーだからOKというものではなく、心技体を競うスポーツをするんだからそういった物に頼るなって事を知って欲しい。

世界選手権等へ監督として帯同した際に、海外ではサプリメントショップが非常に豊富なので選手達はそういった店へ行って、含有量が多く安いサプリを見付けてはどうしても「欲しい」というが、それは絶対に買わせない。「100%PURE」とか「NATURAL」と書かれていると良く理解していない場合だと「安全だ」と思ってしまう事があるが、ドーピングに対しての安全って事では全くない。プロスポーツをスポンサーしているメーカー製品だったら厳格に含有物等を管理して偽りなく製造しているはずなので問題はないが、日本でも売っているメジャーなメーカーであっても表記されていない物質が極々僅かに入っていたりするので非常に危ない。実際に、知り合いの日本で3本の指に入るボディビルダーが、海外通販で「ドーピング禁止物質は入っていない」と大きく謳っていたいたプロテインを買って飲んでいたが、検査で陽性が出てしまい失格&出場停止処分になってしまった。こういった事からも「嘘」が書いてあるケースも存在するので本当に信用できる製品しか買わない事を忘れないでほしい。

実際にはドーピングにどれだけの効果があるのかは判らない。
集団から遅れた際に審判にバレないようにチームカーの後ろに付いて時速80キロとかでずっと走るのを見ていると、ドーピングよりこちらの効果の方が遥かに大きいと思ってしまう事もあるが、競技特性としてルールが厳格に守り切れない部分もあると思う。ルールよりも勝ちたい欲求の方が強い人間がプロには多くいるわけで、他の様々な競技を見ても審判の見ていない場所で数々の違反をしている事は競技全体を見られるテレビを見ている皆さんならご存じだろう。だからといって許されるものではない。ルール内の違反にならないギリギリで戦うのがテクニックであり戦術。ルール内目一杯使って戦わせる戦略。スポーツが商業化されすぎた弊害が、こういった闇の部分を生んでしまったのかもしれないが、商業化の恩恵を少なからず受けている私としても今回の衝撃は心の痛い問題なのは言うまでも無い。

東京オリンピック開催実現のためにも「クリーンな国」、「ドーピングを許さない国」という事を全面的に押し出す事も必要なのかもしれない。