フィッティングとは

自転車のポジションと言われて何を思い浮かべるだろうか?
一番に思い付くのはサドルの高さだろう、ポジションの何を語るにも先ずはサドルの高さから始まる。それにしても日本人の気質というか傾向として、数字や数値をとにかく追い求める事が好きだ、ミリ単位、グラム単位で追い求める。

では、はたしてこのミリ単位の違いを本当に理解し、体感しているのだろうか?
僕はそうは思わない。
その理由として、毎回違う種類のレーサーパンツを穿き、ストレッチは気が向いた時に行い、前日は遅くまで酒を呑み寝不足、シューズやペダルを替え、インソールを替え、サドルを替えてもミリ単位で出したポジションは変更しないでいる点だ。
特に判りやすいのはレーサーパンツ、メーカーはもちろんグレードによっても全く違う厚みや構造をもっているのに、同じ様に自転車に跨って走り出して行くって事はミリ単位のポジションは判ってないのでは・・と思うのだ。

自身が思っている以上に身体ってのは鈍感なもので、身体が軽く調子の良い時ってのは何を選んでも速く気持ち良く走れてしまうものだ。ライダーに分らない様にサドルを3ミリ高く変更しても調子の良いときってのはサドルが低く感じるのでこの3ミリはまず気が付かないだろう。疲れが溜まり筋肉が硬くなって収縮が悪くなっている時などサドルが非常に高く感じる、しばらく走って筋肉が温まって筋肉が緩みだすとアラ不思議、サドルの高さが気にならなくなる。人間の感覚なんてこんなもんだ。

股下の長さに0.897を掛けた数値がBBセンターからサドルトップまでの長さというのが世界中で基準にされる数値、これに異論は無い。ただ、これが絶対ではなくあくまでも基準であり身体的な特徴、特性によって大きく上下する事だってある。様々なフィッティング理論が世界中に氾濫しているが、気を付けて欲しいのは、あくまでも平均値を当てはめているだけで、フィッティングを受けるライダーの身体に100%合う様に導き出された数値ではないって事。世界トップレベルのライダーなら科学の粋を集めて100%により近いフィッティングを可能とするだろうが、日本での実際のフィッティングではライダーとしての経験も少なく、フィッティング理論を僅かな講習で覚えた方が行う事が多々ある、フィッティングといったらココの会社っていうほどに有名なフィッティングでも、施す方が違えばサドルの高さが1センチ違う事も出てくる(実際に2人のフィッターに施してもらった経験のある方に聞きました)。間違った事を教え、施してているわけではないが、ここには落とし穴もあるって事を理解しておいて欲しい。

サドル先端~ハンドルの長さにも同じ事がいえる。その場で腕をピンと伸ばし「前にならえ」をし、肘を僅か数センチ曲げるだけで腕の長さも高さも変るのがお判りだろう、僅かな肘の曲がりで2センチは長さが変ってくる。更には腕はそのままで肩甲骨を寄せたり離したりするともっと長さが変るはずだ。元気な時は自身が理想とするフォームで乗っていても疲労してくれば腕は伸び切り、肩甲骨は寄せ気味になり、体幹が肩と肩の間に落ちたいわゆる「潰れた」フォームになっている事が多い。練習やレースでも序盤で無理して走り、この潰れたフォームで長時間走るライダーも多い事だろう、しかしポジションは元気で調子の良い時のもの。

こう言ってしまうと、じゃーどこを基準にフィッティングすれば良いんだ?元気な時?レース終盤?一番ワットが出る所?となるだろう。
確かにそうだ。
だからどんなレースを、走りを目標にしているかで根本から違ってくると思う。同じレベルのライダーでもMTBで30分のレースとアイアンマンで180キロのバイクで後にランがあるのかでは、どこに焦点を置くかが変る。これ等に求められる要素や違いをフィッター(施す側)が十分に理解している事が大前提。現在のMTBクロスカン
トリー、シクロクロス、タイムトライアル(含むショートのトライアスロン)、100キロ程のロードレースなら出力が出るポジションに合わせて良いだろう。150キロ以上のロードレースなら快適性とのバランス、アイアンマンなら快適性を先にし出力をいかに出すか、と僕は考える。
スバル・ゲイリーフィッシャーに所属している時に、チームメートだったライダー・ヘシェダル(現在はガーミン・サーヴェロ)とアレコレと話していた時に聞いた事、その当時からタイムトライアルに強く、ロードに転向したいとボソっと言っていたりして実際に転向してからはツールドフランスでも終盤まで総合で10位以内にいる事も
あり、そんなヘシェダルから「本当に苦しい時には、強くペダルを踏み込む事より良いフォームを維持することに集中する」と話してくれた。確かに苦しい時ほどペダルをとにかく強く踏み込み、上半身を左右や前後に振ってガニ股でこいでいる事を思い出した。
これではいくら最適なフィッティングを施した所で、狙って乗って欲しい場所に身体が乗っておらず、バイクが進むはずが無い。

こういった事から、出力が出るのか、快適なのか、またはその中間か、この部分に着目し、自身の求めるフィッティングで出したポジションをいかに崩さずに乗るかって事が実は一番重要なんだと考える。

まとめると、人間の身体なんて日々変る。「ある程度」のポジションが出ていれば、後はそこに自分を合わせるスキルが大事って事。レース中の落車でハンドルやサドルが曲がったままでも優勝する選手なんてザラにいます。もっと身体を柔軟に自由に使えばミリ単位のフィッティングより大切な事が見えてきます。